メニュー

B型慢性肝炎と肝臓の不思議な能力

[2019.12.12]

監修/北村 聖
東京大学医学教育国際協力研究センター 教授


日本では母子感染が多い

im_001慢性肝炎は肝臓の炎症が6ヵ月以上続く病気で、多くの場合はウイルスが原因となります。現在、肝炎ウイルスはA型、B型、C型、D型、E型の5種類がわかっています。
B型慢性肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染が原因で起こります。主な感染は血液感染などが知られていますが、日本では母子感染といって、B型肝炎ウイルスを持っているキャリアの母親から子供に感染することが多いと考えられています。
母子感染の有無は、母親の血液検査で調べます。もし、B型肝炎ウイルスが陽性であればB型肝炎ワクチンを赤ちゃんに注射することで治療ができます。初回接種は生まれて2~3ヵ月後で合計3回行います。

赤ちゃんは、免疫力が未発達のため、ウイルスに感染してもウイルスに対する防御機構が十分に働きません。しかし成長と共に免疫力が発達するとウイルスを排除しようとするため、「免疫」対「ウイルス」の戦いが始まります。この戦いが「炎症」となります。

無症候性キャリアとは

炎症が現れていない時期を、症状はみられないけどウイルスは持っているという意味で「無症候性キャリア」といいます。無症候性キャリアは、B型肝炎ウイルスによる炎症が起こっても自覚症状のないまま経過し、多くの場合は治ります。
一方、成長しても免疫の防御機構が十分に働かない場合は、ウイルスが排除されずに炎症が続いて「慢性肝炎」となってしまいます。

「ウイルス」VS「免疫」

im_002慢性肝炎は、肝臓を舞台とした「B型肝炎ウイルス」と「免疫の防御機構」との戦いを意味します。免疫の防御機構は、ウイルスが侵入した肝細胞をみつけると異物と考えて細胞ごと破壊してしまいます。この結果、肝細胞中の成分が血液中に流出するので、血液検査から肝炎の進行の程度を知ることができます。

症状は

B型慢性肝炎ではほとんどの場合、自覚症状はみられません。ただし、肝炎が急激に悪化すると、疲れやすい、だるい、食欲がない、尿が黒褐色のような色になるといった症状が現れることがあります。
一方、症状が現れていないからといって治療を行わずに長期間放置すると肝硬変や肝癌に進行してしまうことがあります。

自覚症状が少ない理由

肝臓の病気には、自覚症状が少ないという共通した特徴があります。特に肝炎の場合、気がつかないうちにウイルスに感染し、炎症による肝細胞の破壊が進行し、症状が現れたときには肝硬変になっていたということもあります。

im_002自覚症状が現れにくい理由の1つは、肝細胞の一部が壊れても残りの部分でカバーする、肝臓の予備能という能力が非常に高いためです。肝臓は、全体の7分の6が働かなくなった場合でも残りの7分の1で、それ以前と同じ働きができるのです。
2つめは、再生能力が非常に高いことです。
肝臓は、その4分の3を切り取っても、約4ヵ月後には元の大きさに戻ることができます。ウイルスとともに壊された肝細胞もただちに再生されますが、炎症が何年間も続くと、この再生能力でもカバーできなくなり、最終的には異常な組織の増加により、重い肝臓の障害が起こってしまいます。
したがって、予備能力が十分に残っていて炎症が進行していないうちに、できるだけ早く、この病気をみつけて対策を立てなければなりません。

im_004

検査

B型肝炎ウイルスの血液検査では、過去の感染歴や現在のウイルス感染の有無、ウイルスの量、ウイルスの活動性などがわかります。
また、肝機能検査では、血液中のALT(GPT)、AST(GOT)、血小板数、アルブミンなどを測定し、肝臓の働きに異常がないかどうかを調べます。
腹部エコー検査では肝臓の状態を観察します。
肝臓の組織を少しだけ取り出して顕微鏡で調べる肝組織検査を行う場合もあります。

診断

診断は、ウイルス検査と肝機能検査を組み合わせて行います。
ウイルス検査が陽性で、肝機能の異常を示すALT値の変動が6ヵ月以上続くと「B型慢性肝炎」と診断されます。
ウイルス検査が陽性でも、ALT値の正常が長く続けば「無症候性のキャリア」として定期的に検査を受ける必要があります。

3つの治療目標

  1. B型肝炎ウイルスの増殖を抑える
  2. 炎症の進行を抑えて肝硬変への移行をとめる
  3. 肝癌の発症を防ぐ

主な治療薬

<抗ウイルス薬>
インターフェロン、
ラミブジン、
アデホビル、
エンテカビル
<免疫調整薬>
ステロイド(プレドニゾロン)、
プロパゲルマニウム
<肝庇護剤>
グリチルリチン製剤
(強力ネオミノファーゲンシーなど)、
ウルソデオキシコール酸
<その他>
小柴胡湯(しょうさいことう)、
B型肝炎ワクチン

原因療法

原因療法は、肝臓からB型肝炎ウイルスを完全に排除することを目指した治療で、抗ウイルス薬のインターフェロンやラミブジンなどが使われます。

対症療法

肝炎ウイルスに対する直接的な効果はありませんが、炎症を抑えて肝硬変への進行を遅らせる治療法です。肝庇護療法とも言い、グリチルリチン製剤やウルソデオキシコール酸が使われます。

B型慢性肝炎の検査を受けたほうがよい人

次の項目が当てはまる人は、B型肝炎ウイルスの検査を受けたほうがよいとされています。
検査は市町村の検診を利用できます。最寄りの保険所や医療機関、または行政機関の窓口に相談してください。

  1. 1992年以前に輸血を受けた人
  2. 長期にわたって血液透析を受けている人
  3. 血液製剤を投与された人
  4. 肝炎ウイルス感染ないし、キャリアの母親から生まれた子供
  5. 大きな手術を受けた人
  6. 入れ墨、はり治療、ボディピアスを受けた人

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME