アレルギー性鼻炎といわれたら
監修/北村 聖
東京大学医学教育国際協力研究センター 教授
「通年性」と「季節性」のアレルギー性鼻炎
風邪をひいたわけでもないのに「くしゃみ、鼻水、鼻づまり」に悩まされ、集中力が落ちて日々の仕事にも差し支える、そんな人の多くが病院へ行くと「アレルギー性鼻炎」といわれます。
アレルギー性鼻炎は、年間を通して起こる「通年性」と一定の季節に限って起こる「季節性」の2種類に分けられます。
「通年性」の主な原因はハウスダストですが、中でも多いのはダニです。ダニ以外の原因には猫や犬などのペットが知られています。
「季節性」のほとんどはスギやヒノキ、ブタクサなどの花粉が原因です。
鼻炎は体の防御反応?
ハウスダストやスギ花粉など、アレルギーを起こす原因物質を「アレルゲン」といいます。
アレルゲンが鼻に入ると、アレルゲンの侵入を防ぐかのように鼻がつまります。また、くしゃみや鼻水という症状でアレルゲンを体の外に追い出します。
このように、アレルギー性鼻炎は体にアレルゲンが入らないようにする一種の防御反応として起こっていると考えられます。
症状はくしゃみ・鼻水・鼻づまり
アレルギー性鼻炎の症状は、1日に何度も繰り返すくしゃみと、水のように流れる鼻水、鼻づまりが特徴です。
これらの症状は、鼻の粘膜に存在する肥満細胞と呼ばれる細胞から、ヒスタミンやロイコトリエン、トロンボキサンという化学伝達物質が放出されることで起こります。
ヒスタミンは鼻の神経を刺激してくしゃみ・鼻水に、またロイコトリエンやトロンボキサンなどは血管を刺激して鼻づまりに関係していると考えられています。
検査
検査は、まず鼻炎の症状がアレルギー性かどうかを調べます。
検査には問診、鼻鏡検査、血液・鼻汁好酸球(びじゅうこうさんきゅう)検査などがあります。
また、アレルギー性であれば何が原因になっているかを検査します。
検査には、皮膚テスト、血清特異的IgE抗体検査、鼻粘膜誘発検査などがあります。
血清特異的IgE抗体検査は、採血をしてアレルギーと関係するIgEという抗体がどんな種類のアレルゲンと結びつくかを調べるものです。
スギ花粉がアレルゲンであればスギ花粉に対し「陽性」というように結果が出ますが、陽性だからといって必ずそれがアレルゲンとは限らない場合があり、問診で得られた情報などと組み合わせて診断します。
問診 | 鼻鏡検査 |
問診では、症状が始まった時期、季節との関連性、症状の種類と程度、過去の病歴や他のアレルギー性の病気(喘息、アトピー性皮膚炎)の併発の有無、家族の病歴(特にアレルギー)などを明らかにしていきます。 | 耳鼻咽喉科を受診すると、専用のスコープを使って直接鼻の粘膜の状態を観察する鼻鏡検査を行います。通年性のアレルギー性鼻炎では、鼻の粘膜が全体的に腫れあがって白っぽく見え、透明の鼻水がみられます。また、副鼻腔炎、鼻ポリープなど他の病気があるかどうかも観察します。 |
診断
アレルギー性鼻炎では、白血球の一種の好酸球という細胞が血液中や鼻水の中に増加します。したがって、鼻汁好酸球検査で鼻水の中の好酸球増加がみられることがポイントになります。
また、症状の原因となるアレルゲンが証明されれば確定診断となります。原因となるアレルゲンを明らかにすることは、治療や生活環境を整える上で重要です。
治療
治療目標の第一は「症状はあってもごく軽く、日常生活に支障がない。薬もあまり必要としない状態」に持っていくことです。
この目標を達成する治療には、薬物療法、特異的免疫療法(減感作療法)、手術療法、アレルゲンの除去と回避があります。
治療薬を選ぶためには、「くしゃみ・鼻水型」「鼻づまり型」といった鼻炎のタイプを区別し、重症度を判定することが必要です。
問診でわかる重症度の基準
軽症 | 中等度 | 重症 | |
くしゃみ・鼻水タイプ 1日のうちでくしゃみの回数、もしくは鼻をかむ回数の多いほうで判断します |
5回未満/日 | 5回以上/日 | 10回以上/日 |
鼻づまりタイプ 1日のうちで口呼吸をする割合を参考にします |
口呼吸を必要としないが鼻づまりを少し感じる | 時々口呼吸を必要とし、鼻づまりも強い | 頻繁に口呼吸を必要とし、鼻づまりも非常に強い |
薬物療法
アレルギー性鼻炎の薬物治療では、抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、抗トロンボキサン薬、ステロイド点鼻薬などを鼻炎のタイプや重症度に合わせて使い分けます。
アレルギー性鼻炎の治療薬
軽症 | 抗ヒスタミン薬または抗アレルギー薬 | ||
中等度 | くしゃみ・鼻水型 |
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*必要に応じて〔1〕または〔2〕に点鼻薬を併用 |
鼻づまり型 |
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重症 | くしゃみ・鼻水型 | ステロイド点鼻薬と抗ヒスタミン薬 | |
鼻づまり型 | ステロイド点鼻薬と抗ロイコトリエン薬または抗トロンボキサン薬 |
特異的免疫療法(減感作療法)
原因となるアレルゲンのエキスを薄い濃度から少しずつ注射し、体をアレルゲンに慣らしてアレルギー反応が起こりにくくなることを期待する治療法です。
数年間という長期の治療になりますが、完治することもあります。
手術療法
レーザー手術、電気凝固法、凍結手術などがあります。
高度なアレルギーでは、粘膜を切除する手術や鼻腔の通気を改善する手術、鼻水を止める神経切除術などがあります。
アレルゲンの除去と回避のポイント
日常生活の中で、鼻に入るアレルゲンの量を減らすことができます。アレルゲンの量を減らすことは、鼻炎の症状を軽くする効果があります。
アレルゲンの除去と回避について、日本アレルギー学会の「ガイドライン―鼻アレルギー」ですすめている方法があります。
室内ダニの除去
ハウスダストが原因となる場合、その大部分は室内ダニです。室内ダニが生息しにくい清潔な環境をつくることがアレルゲンの除去になります。
- 室内の掃除では、吸入したダニを再びまき散らさないように、排気循環式の掃除機を使うようにします。
1回20秒/m2の時間をかけ(6畳の場合は3分30秒弱になります)週2回以上掃除します。 - ソファー、カーペットなどの敷物や畳はダニが生息しやすいので避け、フローリングにします。
- ベッドのマット、ふとん、枕にダニを通さないようなカバーをかけるようにします。
- 部屋の湿度を50%、室温を摂氏20~25度に保つようにします。
スギ花粉の回避
スギ花粉がアレルゲンの場合、花粉情報に注意し、飛散の多い時期はできるだけ外出を控えます。
- 外気を入れないように窓や戸を閉めるようにします。
- 外出時には花粉防御用のマスクや眼鏡を使います。また、表面が突起した毛織物のコートなどはなるべく着用せず、帰宅時は衣服や髪から花粉を払い落とします。入室したら、手洗い、うがい、洗顔をして鼻もかむようにします。
ペットとアレルゲン対策
ペットはできれば飼育をやめたほうがよいのですが、次善の方法として犬なら屋外で飼育することや、猫であれば寝室には入れないことが重要です。
- ペットと、飼育環境を清潔に保ちます。
- 通気をよくし、掃除をしっかり行います。